Ireland アイルランド Vol.10(電子書籍「アイルランドの政治・行政・企業・地方・大学」一部抜粋 Vol.1)

 当ウェブサイトにも掲載している私の電子書籍「アイルランドの政治・行政・企業・地方・大学: 英文脚注15000以上-アイルランド・米国・英国・欧州・日本企業情報を含む」(Kindle版;2018年9月出版)の「政治」部分の一部抜粋を、アイルランドの次回総選挙までに当サイトにおいて無料でご紹介しよう、とイギリスの総選挙が終わって二週間ほど経った昨年末に考えておりました。重労働であったことから電子書籍価格自体は安価ではない一方、この書籍内の日本語情報全般が世の中にほぼ無いと考えられるためです。
 しかし、その時点では首相はすぐに下院を解散して総選挙をしようとは考えていないと総合的に理解でき、また、それが妥当な判断であろうというのが私見でもありましたので、今年もう少し後でやろうと考えておりました。ところが、今月中旬、首相は解散に踏み切り、来月8日投票となりました。(※1.)
 アイルランドは大国ではありませんがEU加盟国でイギリス以外の唯一の英語日常言語国家であり、また、イギリスのブレグジット断行、EU域内の企業の動向などを観察する上でも、我が国が現実に実施している日EUEPAを含む対EUや対加盟各国、そして今後の対イギリスの各種の付き合いなどを思考する上でも、アイルランドの総選挙の情勢や結果は、関係の深くない一般の読者の方々も少し把握しておくべきです。その際には、私の今般の一部抜粋等が少しお役に立てそうです。
 念のためですが、この電子書籍自体が、客観的・中立的・非政治的なものになるよう心掛けて創ったものですので、外国の総選挙結果に影響を与えようという意思その他はそもそも毛頭無く、そういう効果が無いとも考えております。また、15000以上の英文脚注のうち、「行政機関」部分は6900程度、「民間企業」部分は6400程度である一方、「政治」部分は500程度であることが示すとおり、同部分の電子書籍全体におけるウェイトは概ね30分の1程度です。それを何回かに分けて当サイトその他において一部抜粋等という形でご紹介いたします。
 なお、アイルランドは議院内閣制であるため、総選挙後には閣僚の一部は交代する等はあるでしょう。しかしながら、行政全体の枠組みや内容・手法、そして民間企業の動向がすぐに激変する、とは基本的には考え難いです。また、「政治」部分でも、投票方法、政党、選挙区情勢などがすぐに激変することも考え難いです。この電子書籍の出版時に書きましたとおり、概ね10年程度以上は活用して頂けるのではないかという考えも、今のところ変わっておりません。
 また、書籍内にある脚注については、この一部抜粋等においては全て省略しておりますが、それは厳密に言えば(他所で書いた)「英語リサーチに関連するレポート等に係る私見」に沿いません。しかしながら、我が国の現状とかけ離れた“べき論”をいきなり強く主張し続けても現実的効果が出るはずも無く、無償である今般は一国民として現実的な対応とさせて頂きたく存じます。
 更に、これは若干細かいと言えば細かいですが、首相の姓は何度聴いても「ヴァラドゥカー」と聞こえますが、インターネット上では「バラッカー」という表記が最も多く、次いで「ヴァラッカー」となっていたため、全て「ヴァラドゥカー」を「ヴァラッカー」と修正した上で出版しました。皆様はどのように聞かれますでしょうか。一般論ですが、世間標準の片仮名表記は今後変更される可能性があろうかと存じます。
 以上、取り急ぎ自分の考えを書きました。
                               中港 拓

 では、標記の本日分、一部抜粋Vol.1をご覧ください。
(英語ではないローマ字の言語は、ゲール語(※2.)です。※1.、2.とも、本投稿一番下をご覧ください。)

第一章 政治機関
1.国民議会(Oireachtas)
 アイルランド共和国憲法 に基づき、議会は、大統領、上院、下院からなる。また、上院(Seanad Éireann;定数60)より下院(Dáil Éireann;定数158)が優位にある。両院ともダブリン2のKildare Streetにあり、ラインスター・ハウス(Leinster House)と呼ばれている。

(1)大統領(Uachtarán na hÉireann)
 大統領府(Áras an Uachtaráin)は、ダブリン8のPhoenix Parkにある。
 アイルランド共和国憲法12条により、共和制の下で国家元首(head of state)として国事行為・儀礼を司る大統領が置かれ、国民による直接選挙で選ばれる。
 1期7年で2期14年まで可能であり、第6代(1976-90年;パトリック・ヒラーリー;共和党)、第3代(59-73年;エイモン・デヴァレラ;共和党)、第2代(45-59年;ショーン・オケリー;共和党)は2期14年務めている。これまで、無所属、共和党、労働党から、大統領が出ている。
 現職は、2011年10月当選・同年11月就任のマイケル・ヒギンズ氏(労働党)であり、第9代である。
 
(2)上院
 上院は英国貴族院(British House of Lords)をモデルとして創られている。上院トップである上院議長(Cathaoirleach)は、2016年6月からデニス・オドノヴァン上院議員(共和党)である。
 憲法18条により、下院解散から90日以内に上院改選を行うこととされている。定数60のうち、11人が首相(Taoiseach)から任命され、3人がTCD卒業生によりまた3人がNUI Galway卒業生により選出され、43人が下院議員や引退する上院議員や州議会議員・市議会議員が構成する文化・教育/農業/労働/産業・商業/公共経営のパネルにより選出される。
 憲法23条のとおり、下院で可決され送られた予算関連以外の法案に90日以内に同意する権限が与えられており、上院が同意しない場合は更に180日後に下院は上院が同意したものと看做されるという意味で、上院には法案成立を遅らせる権限があると言える。予算関連法案については、憲法21条のとおり、21日以内に上院は推薦案と共に下院に戻すものとされ、その推薦案を受け入れない又は法案自体が戻って来ない場合、下院はその21日が経った時点で法案が両院で可決されたと看做される。
 2016年4月の上院選挙を経て、第25回上院は、
◦ 統一アイルランド党(Fine Gael)19議席
◦ 無所属(Independent)14議席
◦ 緑の党(Green Party)1議席
◦ 共和党(Fianna Fáil)14議席
◦ シンフェイン党(Sinn Féin)7議席
◦ 労働党(Labour Party)5議席
となっている。
 首相任命11人中、統一アイルランド党6人/無所属5人(うち3人は統一アイルランド党と共和党の合意による)となっている。TCD選出3人は無所属2人/労働党1人、NUI Galway選出3人は全員無所属である。パネル選出43人については、
◦ 文化・教育パネル5人(統一アイルランド党2/共和党2/シンフェイン党1)
◦ 農業パネル11人(統一アイルランド党3/無所属1/緑の党1/共和党3/シンフェイン党2/労働党1)
◦ 労働パネル11人(統一アイルランド党3/無所属1/共和党4/シンフェイン党2/労働党1)
◦ 産業・商業パネル9人(統一アイルランド党3/無所属1/共和党3/シンフェイン党1/労働党1)
◦ 公共経営パネル7人(統一アイルランド党2/無所属1/共和党2/シンフェイン党1/労働党1)
となっている。

※1. 昨年何度か見ていたものとは異なりますが、今月インターネット上で発見できたものの一例。
https://www.irishexaminer.com/breakingnews/ireland/taoiseach-eyeing-up-may-2020-general-election-date-950360.html
https://www.joe.ie/news/ireland-hold-general-election-early-2020-651483
※2. 第一公用語。ただ、事実上は、第二公用語である英語が日常言語。


投稿者: 中港拓

ワールドソルーションズLLC 代表。『アイルランドの政治・行政・企業・地方・大学: 英文脚注15000以上』 著者。