“The Creation and Destruction of Value” 価値の創造と破壊 Vol.15

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Vol.15 パワーポリティクスの重要性(第5章-5)

 ユーロの新興国の中央銀行が保有するのに、米国国債の代替としてユーロ建て国債を挙げる考え方もある。しかし、ユーロの先行きも米ドル同様に不透明である。そして、米国金融危機の新興国市場への爆裂により、欧州の銀行の不安定に係る懸念材料が新たに加わった。
 第一に、中欧のEU加盟国及び非加盟国の銀行の為替リスクが非常に高まったために、例えばオーストリアでは同国銀行が周辺国に貸出等している同国GDP比70%相当の2300億ユーロが危険に晒されることとなった。
 第二に、ユーロ地域でのマクロ経済政策の難しさである。1999年の単一通貨・為替レート固定により競争力の違いを為替レートで調整できなくなり、物品生産構造から生じる競争力の違いを助長した。例えば、皮革や繊維などを売り物にするイタリアは、精密機械などを売り物にするドイツよりも、高成長の新興国との競争において脆弱である、などである。
 第三に、マーストリヒト条約締結以来永く論じられてきた財政政策である。EUの予算は加盟国のそれに比較して少なく、各加盟国がそれぞれ拠出している。問題は、伊希葡などは公債比率が高く、財政政策によっても経済危機を免れそうになく、EU全体としては財政政策は無力であることであった。
 第四に、経済情勢下降局面でのケインズ的需要喚起策は1930年代の不況期の知的生産物であったので、あくまで国内を満たす仕様であったことである。財政出動の恩恵が国内から漏れてしまい外国も恩恵に与る時代には、国内経済浮揚策としては無駄が多く魅力に欠けてしまうこととなった。加えて、ケインズ主義は大国には効果的だが、小国には財政出動の負担が大きいため抑制的にかつ国民の自己犠牲的にならざるを得ないという点があった。

あくまで参考
The Euro as a Reserve Currency (PDF; Nov 1997) | Barry Eichengreen @UCBerkeley
Global Imbalances: past, present and future (PDF; 2011) | Marcello de Cecco, Scuola Normale Superiore di Pisa and LUISS @INETeconomics
The euro as a reserve currency: a challenge to the pre-eminence of the US dollar? (PDF; 2009) | Gabriele Galati & Philip Wooldridge @BIS-org
Global Imbalances: The New Economy, the Dark Matter, the Savvy Investor, and the Standard Analysis (PDF; March 2006) | Barry Eichengreen @UCBerkeley
AN ESSAY ON THE REVIVED BRETTON WOODS SYSTEM (PDF; September 2003) | Michael P. Dooley, David Folkerts-Landau, Peter Garber @nberpubs
Regulation and supervisory architecture: Is the EU on the right path? (speech; 2/12/2009) | Lorenzo Bini Smaghi @ECB


投稿者: ワールド ソルーションズ

国際的な諸問題の解決に結び付き得るよう、国際事情を少しずつ読み解きます。